結婚した年(24歳)から26歳まで公文式の学習塾を経営していた。
生徒はほとんど小学生。中学生と高校生はあわせて3人しかいない。
うじゃうじゃと50人ばかり、毎週火曜と金曜の2:00から7:00の間に子供達がやってくる。
だいたい6年生の子が6:00頃来る以外は、みんな5:00前に来てくれた。
全員来てくれれば早く帰れるのに、いつも2人だけ遅く来る子がいた。
1人はTくん。可愛い顔をしたクォーターだ。
Tくんはいくら帰るように言っても帰らない。いつまでも私とおしゃべりしていたいらしい。
めんどくさいので、TAKAに迎えに来てもらった事がある。
「もうお迎えが来ちゃったから、帰らなくちゃ。Tくんも帰らないとお母さん心配してるよ」
そう言うとすごすご帰って行った。
だが、次の教室の日もTくんはいつまでも残っていた。
「なんであんなやつと結婚したんだよ」
と、突然Tくんが言い出した。
「あんなやつって?」
「あいつ、大学生なんだろ。金ないじゃん。だから先生が働かなきゃいけないんだろ。最低じゃん」
「そ、そうだね」
「別れちゃえよ」
はあ?
しかしここで、もともと頭のいいTくんに真面目に勉強させる方法を思い付いた。
「ダメだよ、だってあの人は東大の医学部だもん」
「なんだよそれ」
「私はね、東大の医学部の人としか結婚したくないの。でもそんなにいっぱいいないんだよ、だからダメ」
「俺だって東大の医学部ぐらい受かるよ。それならいいだろ」
「すごく難しいんだよ、私だって落ちちゃったんだから」
「俺は受かるよ、男だから先生より頭いいもん。そしたら先生俺と結婚してくれる?」
おっと、そうきましたか。男だからって……どういう教育されてるのかしら。
「そうだね、Tくんが東大の医学部に受かったら結婚してあげるよ」
「ホント?」
目を輝かせて……うっ、かわいい。
「うん、でもね東大の医学部に受かる為には、今毎日3枚づつやっている宿題、5枚づつにしないと難しいかもよ」
「わかった。5枚やるよ」
「途中で投げ出したら、私、Tくんの事嫌いになっちゃうかも」
「大丈夫だよ、俺の事信じて」
「約束する?」
「ったりまえじゃん」
「じゃ、もうお家に帰ってすぐに宿題やって」
「わかった。でも先生、約束の印にキスしていい?」
ひぇーーー最近の子はませてる〜
「東大に受かったらね」
「東大に受かったら結婚するんだから、その前にキスしていいでしょ?」
「じゃあね、両国高校(偏差値75)に受かったらキスしていいよ」
「そんなのまだ4年も先じゃん」
「だってTくんががんばったとこ見せてくれないと、キスは出来ないもん」
「……しょーがねーな。約束、忘れないでよ」
Tくんはそれから真面目に毎日3教科1日5枚づつ宿題をやった。
私は2年後に公文を辞めちゃったけど、後任の先生からTくん両国ダメだったと聞いた。
ずっと東大に行くってがんばってたけど、中3で公文を辞めたらしい。
なんで東大に行きたいの?って聞いたら前の先生と約束したからって言うんだけど、そんな約束したの?
と、後任の先生に聞かれたが「さあ?そうだったっけ?」と答えておいた。
Tくんからは中学の間は時々ハガキが来たが、高校に行ってから音沙汰はない。(当たり前だ)
もうちょっと若かったらなあ。
クォーターのTくんは17くらいになったら、絶世の美少年だったに違いない。
惜しいわ。<本気で言うな
でもね、プロポーズされたのはこれ一回きりよ。(大泣) さびしー!!
あ、もう一つプロポーズされた事あった。
高校の時の習ってもいない、冴えないオヤジの数学教師。いきなり結婚を前提としたおつきあいを申し込まれても、あんただれ?って感じでしたが。