恋愛エッセイ心の傷


伯父さんの憐れ


おばあちゃんのお姉さんの息子を何と呼ぶのか知らないので、伯父さんと言っている。

去年、一人の伯父さんが膵臓癌で亡くなった。おばあちゃんと同じ病気。

まだ50代後半だった。

私は入院中の半年に数回、お見舞いに行った。

伯父さんは見る見るうちに痩せ衰え、面影がなくなっていった。

伯父さんは私が行くと、ことのほか喜んだ。

全然似ていないのに、Yちゃんにそっくりになったねと言って涙ぐむ。

Yちゃんとは、母の事だ。

以下伯父さんの独白

小さい頃からずっとYちゃんが好きだった。人に取られないうちにと焦って、まだYちゃんが中学生のうちに結婚を申し込んだ。叔父さん(おじいちゃんの事)が許してくれたときは、天にも昇る気持ちだった。毎日学校へ迎えに行き、大人になってくれるのを待っていた。

それがある日突然、もう迎えに来ないで欲しい、結婚したくないと言われて、その後どんなにたしなめても機嫌を直してくれなかった。

今でも理由がわからない。僕はヤケになって酒を飲み、成りゆきで今の女房と結婚する事になってしまった。

長い間後悔していた。女房は僕を恨んでいるんだろう。一度も見舞いに来ない。Yちゃんは一度だけ来てくれたが、御亭主が一緒で何も話せなかった。

この頃よく子供の頃のYちゃんの夢を見るんだ。なぜ諦めてしまったのか、それが心残りで。

(嗚咽が続く)

行く度にそういうことを話しては、最後に手をのばす。私が伯父さんの手を取ると、伯父さんは私を母だと勘違いしているのか、満足げに笑って眠ってしまうのだった。

私は伯父さんが気の毒で憐れで、見舞いに行かずにはいられなかった。

夫を連れて見舞いに行く母、一度も見舞いに行かない妻、なんて無神経なんだろう。

確かに伯父さんの方が悪い。妻以外の人に心を奪われていたら、妻が怒っていても無理はない。だからといって、半年後には死んで行くとわかっている人間に対して、慈悲はないのか?

そう思ってしまったので、せめて私が代わりに見舞いに行ったのだった。母の若い頃の面影を見て、伯父さんも少しは満足してくれただろう。

葬式にも一周忌にも行かなかった。一方的に伯父さんの告白を聞き、同情してしまった私は、伯父さんの妻を悪人だと思い込んでしまったので、会いたくなかった。妻には妻の悲哀があるのだろうと理性ではわかっていたが、受け入れられなかったからだ。

もし妻が半年間親身にお見舞いに行ってあげたら、伯父さんは最後にこの妻と結婚してよかったと思って満足して死んで行けたかもしれない。母の事も思い出さなかったかもしれないのに。

伯父さんは結婚後、一人で株式会社を起こし成功し、財をなしていた。やはり心が空虚な人間の方が、財をなす事が出来るのかもしれない。

多くの財産は妻に遺されるんだから、最後の半年くらい、嘘でも優しくしてあげればいいのにね。

死んで行く人間は、それがどんなに悪い事をした人であっても、許しを与えられるべきだと思う。

しかし伯父さんといい、おばあちゃんといい……私の片思い気質は遺伝かもしれない。

私も誰かを想って泣きながら死んで行くのかな?ヤだな〜。私の手を取ってくれる人も、告白を聞いてくれる人も誰もいないだろうし。

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