恋愛エッセイ心の傷


暴走族になり損ねた14才


中2の時、いじめの真只中にいた頃、給食の時間に校外へ出て、コンビニに行った。そこで同じクラスのYとばったり会ってしまった。

Yは殆ど学校に来ないし、話した事は一度もないが、顔くらいは知っている。向こうも私の顔を知っていたようだ。

Yは近隣の中学を束ねる「男連合」なんたらという不良グループの総長だった。

私は目を合わせないようにコンビニを出たが、Yは付いて来て私に声をかけた。

「おまえ、このままじゃあぶねーよ」

とかいきなり言われて「は?」である。

コンビニの前では中学の目の前にあった商業高校の不良が、しゃがんで煙草を吸っていた。私は喘息なので、そこを立ち去りたかった。私は気付かないフリで無視して歩いた。

「俺んとこに、お前輪姦せって女供、何度も言ってきてるぜ」

いつものコインランドリーで肉マンを食べはじめた私に、そこまで付いて来たYが言った。

かなり焦った。だってコインランドリーは、ガラス張りとはいえ、一応輪姦せるスペースだったし、自分からこんなとこに入って来て、お前が誘ったとか言われたらどうしようと後悔した。

でもYは不良とはいえ、総長だけあってなかなかの人物だった。膝下までの長いガクランの内側に「硬派」と刺繍してあるらしい。(見た事はない)

「女の喧嘩に男を巻き込むなって言っといたけどよ、下の方にまで頼み回ってるらしいぜ。他校のやつらとかだと、俺は押さえきれねーよ」

コインランドリーの入り口に立ったまま、Yが淡々としゃべっている。扉を開けたままなので、中にも冷たい空気が吹き込んで来た。

黙っているとYが言った。

「お前、俺らのマスコットにならねー?」

解説しよう。

暴走族のマスコットとは、戦う男達に笑顔でやすらぎを与える勝利の女神、マドンナ。走りの時は常にヘッドの後ろに乗り、仲間の志気を高める。男達はマドンナの為に戦い、必ず勝利をおさめるのである。マドンナには処女でなければならず、誰も手を出してはいけない掟だ。掟を破れば、過酷なリンチが待っている。(以上Yによる解説を脚色)

「マスコットなら誰も手出しできねー。レディスが悔しがるぜ。みんなマスコット狙って戦ってっからな」

「暴走族になるつもりないよ」

と、はじめて答えた。

「んな事言ってっと、ヤバいぜ。マスコットんなるか学校辞めて家でじっとしてっかしねーとよ、マジあぶねーよ。輪姦しですめばいいけどよ、殺られっかもな」

「そんなの犯罪だよ」

「んな事わかる連中じゃねーよ」

「マスコットになると、どれくらい時間取られるの?」

「あ?」

「うちは門限が5時なんだけど」

「はあ?んなもん守ってんのか?ばかじゃねーの?」

「おじいちゃんとおばあちゃんに、心配かけたくないから門限は破れない」

「走りは週末だけだぜ。普段は5時には帰す、なら文句ねーだろ」

「うーん、やっぱりダメ、暴走族にはなれない」

「輪姦されてーのか?」

「………………」

「嫌ならこんなとこ一人でうろつくんじゃねーよ」

そう言ってYは去っていった。

私は怖くなって、食べかけの肉マンを捨てて学校まで走った。

学校が安全とはいえないかもしれないが、人目のあるところにいようと思い、給食時も外へ行くのはやめた。

あの時、マスコットになって身の安全をはかるのは簡単だった。Yが私に敵意を持っていず、なぜか好意的でさえあったのも幸運だった。

なのになぜ、そうしなかったのか。

私が打算的な人間だからである。

暴走族に入って、高校にも行かず、16で子供を産み、中卒の男と結婚し…… そんな未来にはゾッとする。私の思い描く未来じゃない。

その後Yの指示だったのか、ナンバー2のMがいつも私の目の届くところにいてくれた。学校帰りも2〜3メートル離れたところをついて来て、家に入るのを見届けてくれた。一年以上、欠かさず毎日。不良でもトップを束ねる層はちゃんとしているのだとわかった。

学校では私とMがつきあっているという噂が流れ、誰も私に手出し出来なくなった。ナンバー2の女に手出しして制裁を加えられるのを恐れたんだろう。私は安全の為、本当なの?と聞かれても否定しないでおいた。

卒業の頃、私ははじめてMに話し掛けた。どうしてもお礼を言いたかったからだ。

「お前が好きだから勝手にやっただけだ。気にするな」

と言われて申し訳なくなり、こんなによくしてくれたんだから、つきあうべきだと自分に言い聞かせたが、やっぱりダメだった。

私は男嫌いだからごめんね、と言うと「知ってる」とMは笑った。Mと口をきいたのは、この時一度きりだった。

私の心があと少し弱かったら、暴走族になっていた。そうしたら今の私はなかった。でも私には根拠のない確信があった。自分が上流の人間になるべき運命だと信じていて、いつでもそれが物事の判断基準になっていた。

どんな困難に立たされても、いつだって良い方を選びとれる能力が、私にはある。窮地に追い込まれても必ず、誰か助けてくれる人がいるという強運も。それが私の求める人ではなかったとしても。

私は私の強運と直感を今でも信じている。

と、カッコよくシメておいて〜、ホント言うと、ちょこっとだけ暴走族も体験しました。えへ。

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